無敗弁護士

珍しく特許訴訟に携わった。


相手方についた代理人は多くの著名特許訴訟判決に名前を連ね、多数の論文を発表する「超」大物弁護士である。だいぶ高齢だが、法律事務所のホームページに掲げられた自己紹介では、特許訴訟被告事件で、なんと「負けたことがない」と豪語している。本当かどうかは知らないが。訴訟に縁がない方のためにご説明すると、司法統計上、全訴訟で原告の請求が認容される割合は80%以上である。特許訴訟では原告の請求が認容される割合20%前後と低いものの、2017年5月15日付日経新聞朝刊によれば和解した場合も含めれば原告の実質的勝訴率は40%超に上るという。それゆえ、事実だとすればすごいことだ。テレビドラマの登場人物みたいではないか。アメリカの法廷ドラマSUITS第1シーズン第10話では、無敗弁護士トラヴィス・タナーなるキャラクターが登場する。年齢に差があるが、まさにそれだ。

 

 

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(C)2011 Universal studios / SUITS / season1 episode10 より引用


相手方に負けナシの大物弁護士がついたら、若輩弁護士など萎縮してしまい震えあがってまともに闘えなくなる、そんなふうに思われる方もいるかもしれない。しかし、弁護士は戦闘民族である。そんな大物弁護士が相手方についた場合、寧ろ一旗あげてやろうと思う弁護士が殆どではないか。私も例にもれず、闘争心に火をつけられてしまい、相当な労力をかけて取り組んだ。


労力をかけた甲斐あってか、訴訟はこちら側に極めて有利に進行した。技術説明会を経た後、裁判官の心証開示により、ほぼ勝訴が確実となった。

 

しかし、ここで負ける大物弁護士ではなかった。強行姿勢だった相手方本人を猛烈に説得し、こちら側に花を持たせる格好で和解をまとめ上げてしまったのだ。私としては是非とも判決を取って負かしたいところではあったが、依頼者の利益を最優先に考えれば和解が望ましい。先方の提示する条件を飲むことにした。


どうやら大物弁護士の「負けたことがない」という自己紹介は判決に限ったものという趣旨のようだ。前述のとおり、判決に至った特許訴訟に限れば原告の請求認容率は20%前後に過ぎず被告側で棄却を求めることは比較的容易い。事件の見立てが正確であり、依頼者を説得する能力に長けているという点では「良い弁護士」ではあるのだろうが。

とはいいつも、著名な弁護士を相手に勝訴的な和解を勝ち取れたのが嬉しいから記事を書いているのである。気分だけはハーヴィー・スぺクターだ。

 

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(C)2011 Universal studios / SUITS / season1 episode10 より引用